食べるということは生命を維持するために必然の行為であり、生命の根源を読み解く思想の原点であるように思う。
食べることと深く物事を考えることは同じものの様に思える。
理解することは食べることである。食べて食べられることでわかりあえる。
芋虫が青々とした木の葉を縦横無尽に食べる様子を見ているとそのように感じるのである
ものごとを理解する行為は 葉っぱを虫や微生物がたべて分解し、発酵され 土へと還る様子に似ているように思う。 食べるとは他のいのちを自分に取り込み いのちを継続させるということ。 人の行う行為のすべてがそれなのかもしれない。 食べるということ 全身をつかい体内に吸収すること 吸収し終えたものは出すということ なんとあたりまえなこの行為が生きるために 最も重要で尊い行為なのだ。 一つでも不具合が起きればたちまち心身が崩れ 死に至る。 理解していると思っていたことが体内で 消化されずに溜まり続けているかもしれない。 体の健康も思考の健康も維持するというのは 現代において本当に難しい。 ただ生きることに 全力をつかわせてはもらえないのだ。

SHINKAI ー深解ー
727mm×345mm  2019年2月制作  胡粉ジェッソ、アートグルー、水干絵具、岩絵具
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通勤する時、いつも公園を横切ると 木々のやわらかな香りが流れてきて すこし幸せな気持ちになる。 美味しい空気をいただいたなぁと感じる。 普段意識していない「すう」と「はく」。 食べているといえば一番空気を食べている。 呼吸は食事だ。しかも自分では酸素は つくれない。消費するだけ。 地球の誕生から長い時間をかけて、まず 藻類による光合成から始まり酸素が徐々に 海中に放出され、その酸素がさらに時間 をかけて大気中に放出されるようになり 生物の大爆発が始まった。 想像するだけで心が踊ってしまう。 いま食べている空気は何年物の空気 であろうか。

eat a forest
27mm×345mm  2019年8月制作  綿布、胡粉ジェッソ、アートグルー、水干絵具、岩絵具
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生き物が呼吸することで酸素から二酸化炭素に 変換された空気は、植物の光合成によって 還元される。 「eat a forest」では人間が食べる空気を可視化 する試みだったが、今度は植物たちが食べる 空気を創造してみようと描いたのが「eat a...」 である。 分割パネルにしたのは絵の真ん中に立つことで 「吸い込まれる」「のみ込まれる」感覚を 感じてもらいたいとの思いから。

eat a...
変形パネル  2019年10月制作  胡粉ジェッソ、アートグルー、岩絵具
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新型コロナウイルスが猛威をふるい、外出が容易にできなくなった頃に何気なく家庭菜園を始めた。室内では葉野菜を水耕栽培、ベランダでは野菜の苗を備え付けの花壇に植えた。生ごみをつかったコンポスト作りも始めた。毎日朝に植物の様子を見る。土をさわり太陽の光を浴びると、鬱屈していた心が幾分ほどけてくる。人間の世界が止まったとしても、他の動植物は季節の移ろいと共にいきいきと成長していることにとても安堵した。他の生き物たちがいるからこそ人間は生きていけるのだと心底実感できた。これからやるべきことは今を生きる仲間たちとさまざまな関係を繋ぎ直すことだろう。
人と人、人と自然、人と地球。途切れてしまった糸をつなぎなおすために何ができるか考える。

微と生きる 微に生きる 01
S4号×3枚 2020年6月制作 キルト綿、アートグルー、岩絵具
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元気な土とは微生物だらけで虫がほとんどいない土であり、 虫は微生物を補充する生き物。地球上の死体をうまく次の生命 に変えるため、死の局面に現れて次なる生をつくる生き物が 微生物だという。微細な生き物たちのもつ生命のダイナミズム によって、地球は食べて食べられて生と死を循環させている。 ただただ肝銘を受けるばかりである。 私が死をむかえたら土に帰っていきたいと素直に思った。 それが自然であたりまえなことなのだ。 人間の体の中にも無数の菌や細胞が生と死を繰り返しながら 一つの世界を維持してくれている。 すべてがつながっている。 全部がたいせつなのだ。

微と生きる 微に生きる 02
S15号  2021年1月制作  キルト綿、アートグルー、岩絵具
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